星空の四重奏【完】
「あれ、ビックリした?あれ?僕のこと聞いてたよね?あれ?」
衝撃的すぎて絶句している面々を尻目に、不安そうな表情をする目の前の男。
しかし、ロイの顔を覗き込んで満面の笑みを向ける。
「それにしても、ロイ君は優秀だねー。関心関心。きみみたいな人間が増えてくれると僕も有難いんだけどさ」
「あ、ありがとうございます……失礼ですが、本当にフリードさんですか?」
「いいねぇ、フリード『さん』。敬われてる感満載じゃん。そうだよ、僕がフリード。証拠にほら、周りを見てごらん」
3人がいたのはカフェ。そこでテーブルを囲んでお喋りをしていたのだ。
フリードに言われた通り、周りを見回してみる。さっきまでと変わらぬ風景。
しかし、物音ひとつしない閑静な空間。聞こえてくるのはお互いの息遣いだけだ。
……時間が、止まっている。
歩いているウェイターも、本のページをめくっている男性の手も、コーヒーの中に一滴のミルクが落ちていくその瞬間ですらも、すべてが静止している。
動いているのは、ロイたちだけ。
「驚いたかい?」
「は、はい……」
シーナが掠れた声で答えた。フリードはこの光景を気にした風でもなく微笑んでいる。
ギルシードが目の前に立っているフリードの顔を見上げた。
「本物……みたいだな」
「そうだよ。僕がフリードさ。正真正銘、この世界も創った神」
「も、ですか?」
「僕はいくつかの世界を統べる神。でもこの世界は割りと古い方なんだよねー。この間も新しいの創ったばかりだし」
フリードは喋りながら、近くにあった椅子をテーブルに寄せて座った。長い足が椅子と合わず邪魔なのか、伸ばして組んでいる。
あまりにも卓越した美貌をもっているため、直視していいものなのか恐縮してしまい、シーナは目を反らした。
「じゃあ、マーズとかが住んでた世界はおまえが創ったのか?」
「いーや、違うよ。僕の管轄外から侵入した訪問者さ。まあ、マーズたちは僕が向こうの神にお願いして送られて来たんだけどね」
確かにそのようなことを言っていたような。
尻拭いをするために召喚された彼ら。迷惑なことだとは思うが、過ちを償うのは同胞の役割でもあるのかもしれない。
「ヴィーナスが消えちゃって残念だったよ。それは悪いことをしたなって悲しくなった。でも、こういうことに限っては犠牲もつきものなんだよね……」
「犠牲……」
「そう。殺傷し合うことはもうすでに確定されてる。僕も、決定されている未来の事項を変えることはできない。でも、違った結果にすることはできるよ」
「違った結果、ですか」
「うん。戦争は避けられない。でも、負けるか勝つかはそのときの自分たちの行いによって左右される」
その言葉にハッとする3人。
そうだ。今が大事なんだ。過去でも未来でもなく、今。現在。
過去の自分にも、未来の自分にもなれない。なれるのは、今の自分だけ。
未来の自分に託すのではなく、今の延長線上にいる自分がやるんだ。
未来の自分なんて、あてにならない。人任せにはできない。
「明日明日って言うけど、そんなのすぐにやってくる。時間はこうやって止めない限り着実に進んでいるんだ。止まれって願っても、永遠には止められない。僕だって本当はきみたち人間とこんな風に接触したくなかった。
でも、会わなければ結果は変わる。きみたちだって嫌だろう?周りの時間が止まっているってことは、自分たちだけ、その分長く時を刻んでる。その分歳を取ってるってことなんだ」
「うげっ……それは困るぜ」
「時間を止めることは秩序を壊すってこと。もちろん空間を止めることもできるけど、そんなことしてきみたちに会ってたら死んじゃうし」
「空間、ですか?」
「あらゆるものが止まるんだよ。となると、そこら辺に含まれている酸素も止まってることだから、きみたちはすぐ死ぬね。
まあ、そんなことはともかく。封印のやり方、知りたくない?」
鋭い瞳で視線を巡らせたフリード。さっきまでの薄ら笑いは消え失せ、真剣な表情になった。
端正な顔立ちの効果で、それが冷徹な雰囲気を醸し出している。彫刻のように、冷たい。
その形の良い唇から発せられた言葉もまた、冷たいものだった。
「封印にはきみたちの愛用品。肌身離さず持ち歩いているもの。
そして、寿命が必要なんだ」