星空の四重奏【完】
「「「じゅ、寿命……?」」」
「そう。5年分ぐらいかな。愛用品はなんでもいいんだけど、こればかりはどうにもならない」
まだまだ若いから寿命をとられると言われてもいまいちピンと来ない。第一、自分が何歳まで生きられるのかもわからないのだから。
だが、5年分の寿命というものは絶対に自分にとってはかけがえのないもの。その歳月はきっと長い。
大切な人と過ごせる時間もまた、減るということになる。
「それを承知の上で、封印することに同意してもらいたい。自分の生きられる期間を犠牲にして、未来を救ってもらえないかな」
「……寿命、ですよね」
「うん。僕に寿命なんてないから死ぬってことの恐怖はない……でも、きみたち人間にはある」
「神様には死期がないんですね……じゃあ、かなりのおじいちゃんなんですか?」
「アハハ……見た目に惑わされ過ぎだよ。僕はこの容姿をしたいからこれになってるだけ。犬にも猫にも馬にもなれるんだよ」
「へぇー……」
シーナは主旨とは全然関係ないことを気にしだした。ギルシードもロイも何を考えているのかぼんやりとしている。
なんとなく、4人の間に奇妙な沈黙が落ちた。
何かを聞きたいような気がするけど、どうでもいいことのように思えてならない。
これを聞いたって何も変わらない。寿命が縮まることを惜しんでいる場合ではないし。
そもそも、惜しんでいるのかどうかすらも怪しい。他人のことのように感じてしまっている。
「まあ、きみたちは引き受けるだろうね。
じゃあ、考えといてね。また僕と会うときは、レンを取り戻したときだよ」
フリードはそう言うと、立ち上がった。
そんな彼を見上げる。
「それか……この世界が滅んだときかな」
最後に怒ったような厳しい表情をしてから、ふっと消えていった。
瞬きをした瞬間、そこにはもう誰もおらず時間がまた流れ始めた。
ウェイターがきびきびと仕事をし、男の手によって本のページは捲られ、コーヒーの中にミルクが落ちる。
喧騒が取り戻された。
「あのー……生きてますか?」
「んだよいきなり……」
「途中から皆さんの息遣いが止まっていたように感じていたので……」
シーナはさっきまでフリードが座っていた椅子を眺めながら聞いた。
ギルシードがめんどくさそうに答える。
「おまえの耳が音を拾わなくなったからじゃねぇの?ぼーっとしてるときは何も聞こえなくなるもんだ。気のせいだ気のせい」
「そうですかね?」
「……はあ。気のせいであってほしいです。いったい何でこんなにも息苦しいのか……」
本当に衝撃のあまり息をするのを忘れてしまっていたのか、はたまた新しい使命を授けられてしまい、しかもそれが現実離れしすぎていたせいか……
頭がいっぱいで、しばらく3人は思考を停止させていたのだった。