星空の四重奏【完】
シーナ&レン′s *Duet*
「かはっ……!」
「黙らなかった罰だ。俺を惑わそうとしたのかは知らんが、逆効果だったな」
「ああっ……」
苦しい。酸素が足りない。
毒が強すぎる。力が抜けていく。
重い。身体も心も重い。
助けられないのが、苦しい。レンさんも、彼のことも。
大切な人を失ってしまった悲しみが、彼を立たせている。その悲しみを取り除こうとしたから、反発されたんだ。
悲しみを糧に、彼は立ってる。
「確かにヴィーナスはいない。俺が殺したも同然だ。だが、それは過去のことだ。今の感情にそれは関係ない」
「そ……やて……」
「あ?」
「そ……やって……我慢、するの……?」
自分の心に蓋をして、見て見ぬふりをして。
関係ないのだと言い聞かせる。
でも、それは裏を返せば一番忘れたくないことと同じ。忘れられない、忘れたくない。
心に、留めて置きたい。
「俺が我慢?してるわけないだろう。ヴィーナスは死んだ。それが現実だ」
「現実を……受け止めれば……楽……?」
「そうだ。現実を認めれば楽になれる。束縛されずに自由に生きられる。行動できる」
「う……そ……」
「嘘?俺が?」
「あなたは……捕らわれ……てる。自分の……存在意義に……」
「ほほう。それではその存在意義とやらを聞かせてもらおうじゃないか」
彼の存在意義……それは、
「負に生き……負で終わる」
「……」
彼の笑みは消えた。でも、そんなの関係ない。
「自分は悪者だから……光を成敗する……正義に反発す……る……でも、悪者……だからって……自分に言い聞か……せて、束縛してる……」
自分は正義の敵。だから、それに逆らって、秩序を保って行動してる。
表のマークさんを全否定して、罵って……
でも、裏を返せばそれは自分の存在も否定してるってことになる。
この人は、自分が嫌いなんだ。
「自分を、嫌いになったって……そんなの、悲しいだけ……」
「じゃあ、おまえは自分を許せるのか?」
「許、せる……ゴホゴホゴホッ!」
そろそろ喉も肺も限界が近い。さっきの咳で首を少しナイフに当たって切ったみたいだけど、関係ない。
言わなくちゃ。伝えたいから。
「私も、自分が嫌いだった……」
踊ったって、無意味。団長には内容に華がないって言われてたけど、それはどうしようもなかった。
だって、嫌いな自分をお客さんに見せたって虚しくなるだけ。こんなのを見て楽しいの?って聞きたくなったけど、そんなの聞けない。
だから、誰も見てないところで踊るのが好きだった。
誰もいないから、評価されない。お客さんからも、自分からも。お客さんの反応で自分を評価して、自己嫌悪に陥って。
それをしなくてすむから、ひとりで踊るのは好きだった。
でも、ある日その考えは覆った。
「でも、認めてくれたから……好きになったの」
三つ子に踊ってと頼まれ踊った。本当は抵抗があった。何を言われるんだろう、何を感じたんだろう。
でも、それは言葉にされる前に伝わって来た。
キラキラと目を輝かせて見上げる子供たち。笑顔で凄い凄いと拍手をする。
正直、何が凄いのかわからなかった。こんなの現役のときに比べればぎくしゃくしてるしお客さんに見せられるものじゃない。
それでも、凄いと言ってくれた。言葉で聞かなくても、その瞳が語りかけてきた。それを見て、嬉しくなった。
それで、気づいた。
自分が嫌いだったのは、自分じゃなくて、周り。周りが嫌いだったんだ。自分を取り囲んでいる世界。
周りの目がどうとか、こう評価されてる、とか。先入観だけが先走って自分の価値を自分で下げてた。
自分に自信がなかったゆえの過ち。それはお客さんに失礼な行為だった。
それで自分が嫌いだと錯覚してたんだ。外の世界が気になって、自分の世界を忘れていた。自分の良さを全否定して、無理やり封じ込めてた。
でも、子供たちの羨望の屈託のない瞳と目を逸らさず向き合ったら、ようやくわかった。
周りの世界がないと、自分の世界は造れない。
自分の世界がないと、周りが見えなくなる。
表裏一体の世界で宙ぶらりんのまま今まで生きてきたけれど、私の手を取って導いてくれた数々の人々。
それから、私は自分と向き合えるようになった。自分には何ができる?皆は何をしてほしいのかな?何か役に立てることはあるかな?
自分を出すことで、周りも私を認めてくれる。
……違う。認めてくれてたのに、悲観的に捉えていたから気づかなかっただけ。とっくに周りは私を受け入れてた。
それを実感したから、皆が私を好きだから、私は自分を好きになれた。
今なら、思う存分皆の前で踊れるよ。笑って踊れるよ?
それもこれも皆、あなたのおかげなんだよ。
なのになんで、あなたは自分の世界を認めないの。
ねぇ、気づいて。あなたはひとりじゃない。悲惨な過去を持っていたって、今とは関係ない。
あなたはあなた。それだけで十分なんだよ?どうか、自分の価値を下げないで。