星空の四重奏【完】
ピリオド
……と、ここまでが実際に起こったことである。伝記や記録にはここまでしか詳しく残されていない。
それには理由がある。
神であるフリードが、詳しく記述することを禁じたのだ。神が自分の世界に干渉することはよろしくない。
ましてや時間を止めてしまったのがもっとまずかった。世界の秩序が崩れ、綻びができてしまったのだ。
その綻びは影の世界の影響で大きく開き、異世界との結びつきを強くさせてしまった。
そのせいでゲルベルの森にあるあちらの世界と繋がっている通路も広がり、どっと神類が押し寄せて来てしまいそうになった。
これでは取り返しのつかないことになる。
と、本部に保管されていた大量の血液を使って強力な結界を作り、事なきを得たのだがそれも時間の問題だった。
そして、フリードは決意した。
『我ら』をあちらに送ったらこの通路を塞ごう、と。そして、影の世界を消滅させよう、と。
魔物が封印されいなくなれば、影の世界は必要なくなる。
そのため、封印の儀は直ちにとり行われた。レンを取り戻してからすぐにフリードと4人の勇者は合流し、フリードによって造られた空間で儀を行った。
レンはクレイモアを、シーナは団長から譲り受けた鈴を、ギルシードはダガーを、ロイはナイフをそれぞれ封印に使った。
封印の儀は見事成功し、マスターたちが集めてくれた魔物を封印することができた。幸い怪我人はいたが死者はおらず、歓喜の渦が皆を取り囲んだ。
終わった。魔物の脅威は無くなった。適応者も未来永劫産まれてこない。安泰だ。世界を救った。
その後、デカル教は自然消滅した。もともと実態はよくわかっておらず、それは信者も同じだったのだ。
だが、適応者への偏見は変わらなかった。各地にいた適応者たちは自然と本部に集まって来た。
ここに住まわせてほしい。周りの冷たい態度はもう堪えられない。
影の世界は無くなったものの、適応者は未知なる存在。得体の知れない者を野放しにされては堪ったものではないと、一般人に解釈されてしまったのだ。
その現状はおさまりそうになく、本部の人口は増えるばかり。それを打破しようと立ち上がったのは、レンとシーナであった。
適応者の国を作ろう。そして、いずれは大国にし、豊かな国にしよう。
時が経てば適応者はいなくなる。その時を気長に待とう。そうすれば明るい未来を手に入れられるはずだ。
しかし、当初は大混乱だった。誰が王になるのか、政治はどうするか、家は?役所は?仕事は?
何もかもを1から始めることは、困難を要した。しかも皆ド素人。王族など、ひとりもいない。
……いや、ひとりいた。
ロイが、いたのだ。彼は自国と行き来して知識を与え、建国のために全力を尽くした。
その間に決められた王は……レン。封印をした英雄。彼が王になることに誰も反対しなかった。する理由もなかった。
王妃はもちろんシーナ。2人はお似合いで、美男美女のこの夫婦が王家になることは、歓迎された。
ロイは国がある程度定まってきた頃、自国に戻った。彼は、まだやり残したことがある、と告げて国から去った。
きっと、家族とやり直すために戻ったのだろう。デカル教はなくなり、彼の居場所は確保されたのだから。
そしてもうひとり、活躍した男がいた。
彼の名前はギルシード。彼はもとは農家の息子。子供の頃の経験を生かし、手探りではあるが農作物や畜産物を作ろうと皆と協力しながら奮闘した。
寒いこの地域での農作は不可能だとわかり、何度も諦めかけた。しかし、彼はあるとき思いたった。
地下ならどうだろう、と。
本部の施設は地下にあった。あそこはあまり寒くなかった。暖をなんとかして完備できれば農業は可能になるかもしれない。
その結論に反対の声はあった。地下に大きな空間を掘るのには月日はどれぐらいかかるのか、見当もつかなかったからだ。
正論だったため、また振り出しに戻ってしまった。でもある日、転機が訪れた。
子供が数人遊んでいると、いきなり雪の地面がズドンと落ちてしまい子供も一緒に落ちてしまったのだ。