星空の四重奏【完】
イ
パックは家路を急いでいた。
急遽パーティーはお開きになり、帰りが予定よりも早くなったためである。
(どうやらケイが届けてくれたようだけど、やっぱりこれじゃないとね)
厨房でせっせと働いているとき、シーナが届けてくれた赤いスカーフ。それは今しっかりとバッグの中にしまってある。
昨日、明日使うからとエレミナにアイロンをかけてもらったのだが、うっかりテーブルの上に忘れてしまったのだ。
(あれ?なんだか賑やかみたいだね)
玄関の前に立ったとき、我が家から複数の声が聞こえて来た。三つ子の走るドタドタという音は相変わらずだけれど。
それ以外に男性の声が多いような気がする。
(まあ、悪い人ではないはず)
パックはドアノブに手をかけ勢いよく開けた。
「ただいまー!」
「父ちゃんお帰りー。お疲れ様」
「よっ!親父」
「ココ!帰ってたのか」
「本当は打ち上げとかあったらしいけど、久し振りに帰るのもありかなって」
「そうかー」
「ほらほら、父ちゃん早く入って。紹介したい人がいるんだ」
ケイに促されパックはリビングに行った。すると、想像以上の人の多さだった。
「おい、俺のだぞそれ」
「いいじゃん別に。子供に譲るのが大人じゃん」
「肉は別だ」
「ケチだねギルは」
「んだと……」
「まあまあギルさん。子供相手に大人げないですよ。おとなしくあげればいいじゃないですか。ということで僕ももらいます」
「なっ!てめー!おまえは大人だろうが!」
「ギルさんよりは年下ですから。ケチですね」
「そうだぞ!」
マルクがギルシードの肉を横取りし、ロイもひょいっとその横から横取りした。
それに激怒したギルシード。だが顔は笑っていた。
また別ではカードゲームをしているレンとシーナと師匠と子供たち。
「あー、また勝っちゃった!」
「スオリは強くていいなぁ。僕も勝ちたい」
「ババ抜きは運任せだからなぁ」
「師匠さんは運がないってこと?」
「それを言わないでクリス君……」
「だってさっきからずっとビリなんだもん」
「とほほ……」
「じゃあ、別のやらない?」
「お姉さんに賛成!レンさん他に何があるの?」
「そうだな……神経衰弱はどうだ」
「しんけいすいじゃく?なにそれ?」
「やっていればわかる」
賑やかなのは見ての通り。食べている者がいれば遊んでいる者もいる。
しかし、パックの心の中は風がすうっと通れるほどの風穴が開いていた。
「誰も僕が帰ったことに気づいてない……」
三つ子たちはいつもお出迎えをしてくれていたのに……エレミナだって声をかけてくれてもいいのに……
目尻が下がり途方に暮れているそんな父親を尻目に、息子二人はクスクスと忍び笑いをしていた。
((その表情傑作……!))
……どうやらあなたの息子たちは人の不幸を笑っているようですよ、お父さん!