星空の四重奏【完】
「……」
「……」
一方、ギルシードとキリトの闘いは寡黙な空気で行われていた。どちらも言葉を発することなく剣を交えている。
観察していると、どうやらキリトは集中すると何も喋らなくなるということがわかった。標的から目を一切離さずに爛々と瞳を燃やしている。
そんなキリトをさめた目付きで睨みながらギルシードは闘っていた。
(全神経を相手に注いでるみてーだな)
ギルシードはなんとも疲れる闘い方をするもんだ、と半ば感心、半ば呆れた。
集中が切れたとたん、倒れてしまうのではないかというほどの執着。ギルシードはその猛追に牽制されながらも、弱点はないかと探っていた。
相手はギルシードとは違い長い剣。ダガーでは一見不利に見えるかもしれないが、そうでもない。
相手の懐に入りやすく、扱いやすい。長剣では重さや長さで身体を存分に飛躍させられない場合が多い。
だからギルシードは、ずっと短剣であるダガーを使ってきたのだ。忍び込むときに邪魔にならず、相手の死角に忍ばせておけるため一石二鳥な代物なのだ。
つまり、盗賊にとってダガーは身体の一部なのである。
(んにしても、よくもまああんなに剣を振れるもんだ)
五分という短い時間指定があるからなのか、全力で向かって来るキリト。余程体力に自信があるらしい。それにさっきからギルシードの苦手なところを突いてくる。
分析力もあり、自信家でもある。
ジェムニに選ばれるだけのことはある、とギルシードは心の中で納得した。
ギルシードはいったんキリトとの間合いを取った。近くからはわからなくても、遠くから見ればわかることもある。
距離を取られたキリトは一度、大きく深呼吸をした。呼吸を調整して集中力を高めているらしい。
(ふーん……やっぱり)
ギルシードは目を細めてそんなキリトを眺めた。
ひとつわかったことがある。それは……キリトが左利きであるということ。剣を左手を前にして握っている。そこからわかることは……
右への攻撃が弱いということ。利き手とは逆の手を使うと、どうしても力の差が出てしまう。近すぎてじっくりと見られなかったところを発見したのだ。
しかし、そんなことを思っていられたのも束の間、キリトがまた攻めて来た。やはり身体を右にずらし、左から剣を振っている場合が多い。
(こうやって見ると、意外と単調な攻め方だな)
ギルシードはジェムニのあと一分、という言葉に反応すると、視界の隅に入ったあるものをキリトに見られないようにして拾い後ろに飛び距離を開けた。
キリトはそれでも間合いを詰めて来る。どうやら拾ったことには気づかれなかったみたいだ。
(案外盲目だな。それが命取りになるってゆーのによ)
ギルシードはダガーを掴み直し、キリトへと真っ直ぐ突っ込んで行った。わざと土煙が上がるように靴裏を使って滑り込む。
キリトは不意だったのか走るスピードを落としたが、それでもギルシードの残像を追って剣を振りかぶった!