星空の四重奏【完】
「やめ!」
ジェムニの言葉が響き渡る。いつの間にか声援はやんでいた。戦闘に見いりすぎて途中から忘れていたのだ。
ハッとしてシーナが目を凝らすと、ロイとデゥークは間合いがあと数センチというところでぴたりと止まっており、ギルシードとキリトの方は……
キリトの剣がギルシードのダガーを撥ね飛ばし、その切っ先を首にあてているところだった。
シーナはその光景に肝を冷やしたが、なぜかキリトの様子がおかしい。彼もまたシーナのように顔面蒼白になっている。
ジェムニも訝しげにその様子に首を捻った。
「キリト、どうしたんだい?」
ロイとデゥークが緊張を解いて満足そうに笑いあっているとき、ジェムニは未だ動かない2人に近づいて行って問い掛けた。
その言葉にギルシードが顔を向けて呑気に答える。
「心臓にナイフ突きつけてるからでーす」
「なっ……」
ジェムニは回り込んでキリトの胸元を見ると……そこには一本のナイフが。
他の者も駆け寄り確かめる。
「あ、僕のナイフですね」
「ロイさんのナイフ……」
シーナも呆然として呟いた。確かに空いた方の手が変な動きをしたなとは思っていたが、これを拾っていたとは……
キリトは恐怖からなのか、額に汗が湧いている。
「まっ、反則にはならねぇよな。二対二でもいいって言ってたし。なあ?」
「まさか、ギルさんと以心伝心できていたとは思いませんでした」
「え?」
シーナがきょとんとして声を上げると、ロイは照れくさそうに目を伏せた。
ギルシードがそんな彼を横目で見ながら体勢を正しナイフを彼に返す。
「おかしいと思ったんだよなー。あのロイがナイフを投げるんだぜ?ここで投げたら無くなる可能性もあるのによ。物を大事にするやつがするようなことじゃねーよな?」
シーナはなるほど、と納得した。必ずと言っていいほど、使ったナイフはなるべく回収しながら闘っていたロイ。それは以前の話で今は銃を使っているからすっかり忘れていた。
あのとき……4人が初めて顔を揃わせたときもそうだ。大きな魔物が乱入していたときもロイは使ったナイフをわざわざ拾っていた。
ロイはギルシードが拾うことを想定していたということなのだろうか……?
「ロイのナイフあるじゃん!とか思って俺は拾ったんだ。拾って損はないし使えるかもしれないと思ってな。ま、そーゆーことだからあんま気にすんな」
ギルシードは、ぽんとキリトの強ばっていた肩を叩いた。その直後、糸が切れたようにキリトはへなへなと座り込み息を調えていた。
そして、なぜかロイも剣を放り投げしゃがみこんでしまった。しきりに右腕を揉んでいる。
「どーした?」
「いえ……その……情けないんですが……」
「……あは、あははははっ!」
「ジェ、ジェムニさん?」
いきなりジェムニが愉快そうに笑いだしたためシーナは驚いて目を見開いた。子供たちも不思議そうに見ている。
ジェムニは目尻に浮いた涙を拭きながら答えた。
「はー……これほど予想外な展開は思ってなかったよ。一般の適応者にも強いやつはまだまだいるんだねぇ。それとチームワーク。これも訓練に取り入れようか。
でもあたしが笑ったのはそこじゃあない。ロイが……クククッ……」
ジェムニは笑ってばかりでいっこうに先を言おうとしない。痺れを切らしたギルシードが腰を下ろしている彼に畳み掛けた。
「てめー!なんだよ、言えよ!気になるじゃねーかよ!」
「ギルさん、一度剣を持ってみてください」
「あ?……ったく……」
ギルシードは不満たらたらでロイが床に放り投げた剣を持ち上げてみる。
すると、ずしりと予想よりも重みを感じた。
「へえー……けっこう重いな」
「そこなんです。これを僕はなに食わぬ顔で扱っていたんですが……あはは」
ロイは愛想笑いみたいな感じでその先をたぶらかしてしまった。ギルシードは興味を持ったようで調子に乗ってぶんぶんと素振りをしている。
そんな光景に周りはこんなことを思っていた。誰もが最初は経験したことで……
(((ああ、筋肉痛……)))
きっとギルシードもあの調子では筋肉痛の餌食となってしまうのは必須だろうと思いながら、御愁傷様ですと皆が皆、心の中で呟いた。
その光景をひとりの男は壁に背を預け腕を組みながら、鋭い眼差しで眺めていた。