ナンパ男がしつこい件について
「……悪い」
片桐は大体のことをわかってるように見えた。
「あたしがあの子がてっきり浮気相手かと思ってただけで…」
「そう思わせた優雅が悪い」
見向きもしないで言った。
「でもさ、いくら浮気しても『殺す』なんて相手に言っちゃダメでしょ」
片桐はそう言う。
「たかが彼女なのに。大体俺浮気してないし」
片桐はまだ続ける。
「お前だっていちいちうるせえんだよ、ホストやってんだよ俺は。それでお前に奢ってもやるし俺はそれで食っていってる。それを納得してないなら好きになるな」
その言葉に、どこかの糸が切れる音がした。
「…ざけないでよ」
自分でもわからないうちに体が動いた。
「浮気がどれだけ傷つくか知ってるの?」
片桐はあたしから目をそらす。
「………寂しいんだよ、ただ。虚しいんだよ。浮気されても、自分自身を嫌いになって、相手のことは嫌いになれないんだよ」
「でも、俺仕事してるだけだし…」
「あんたさっき忙しいって言ってたじゃん、お母さんをここまで連れてきたらもうあとはあたしが介抱するって言ったじゃん」
「それは、お前の母さん気遣って」