ナンパ男がしつこい件について
あたしを両足ではさむようにして近づいた。
背中、あったかい。
しばらく、そうしていた。
何分かたつと、
椋太郎は腕の力を強くする。
「痛い…」
「我慢して」
そんな無茶な。
「今は、我慢して」
「椋太郎?」
何かがおかしいと思って椋太郎の顔を見た。
すごく不機嫌そうな顔をしてる。
「優雅、もう一発殴っても足りねぇよ」
あたしの背中に頭をおしつけた。
首が疲れて前を向く。
「くそ…」
後ろから鼻水をすするような音が聞こえる。
…まさか。
「ね、椋太郎」
あたしは椋太郎の顔を見ようとした。
「顔、見して」
「やだ」
そう言った声は少し涙声になってる。
「椋太郎」
「見せねえ。絶対見せねえ」
意地になってもあたしからはなれようとしない。