ナンパ男がしつこい件について
電車に乗ると、椋太郎は黙った。
「……帰り、どっか寄ってく?」
その空気が重苦しくて聞いてみると
椋太郎は首を振る。
「やめよ、帰ろう」
「わかった…」
椋太郎がこんなこと言うなんて、
すごい変な気がする。
胸のなかに生まれる違和感。
嫌な予感っていうのは基本的に的中するらしい。
あたしは少しだけ、眉をひそめた。
「…次、歌舞伎町だね?」
「…………うん」
椋太郎はそれ以上喋らない。
あたしも、喋るのをやめた。
ただずっと手は繋いだままで。
それは駅を出ても変わらない事実だった。