ナンパ男がしつこい件について
「あたし、椋太郎とまだ水族館行けてない、片桐がナンパしてる間に約束したんだけどさ」
『俺がナンパしてる間にってのいらねーだろ』
少しだけクスクス笑う。
『大丈夫か?』
「え?」
『疲れただろ走って。今どこにいる?』
………この優しい奴は誰だ。
「あんた本当に片桐?」
『そりゃそうだろ!少し優しくしたらそれか!』
「そっか…よかった。今は…」
辺りを見渡す。
「2丁目の…」
住所を言うとすぐに片桐は来た。
「足怪我してるじゃん、タイツ伝線してるし」
「伝線はよくあるし、これは靴擦れだから大丈夫」
ピリピリとした痛みに耐えながら、
「あと…調べてないところは…?」
「ない、と思う」
「俺も。悪いけど、歌舞伎町にはもういない…と思う」
あたしもそれに頷いた。