甘い悪魔。
そんなことを思っていると、いつものように椎名さんがプリントを抱き締めてやってきた。
「あら、椎名さん。いつもプリントありがとね」
「い、いえ…!」
椎名さんは控えめにちょこちょこと歩いて、こっちに近付いてきた。
「…あっ!」
あとちょっとというところで、椎名さんは自分の足に躓いて転んだ。
大事そうに抱えていたプリントも綺麗に散乱した。
以前のあたしだったら「ほんとドジだな」って心の中で思うだけで、ただ見てるだけだった。
でも今のあたしは、変わろうとしている。
「…え……?」
椎名さんに近付いて散乱したプリントを拾う。
さすがの椎名さんも驚いてあたしを見ている。
拾ったプリントを床でトントンと整えて、立ち上がる。
「…ほら。いつまでも床に伏せたままだと、制服が汚れるわよ」
あたしは椎名さんに手を差し伸べた。
椎名さんはあたしの顔とあたしの手を交互に見ている。