坂下さんちの碧くんは、
「熱中症なんじゃない?こんなに暑いし」
結局
そんなんじゃじぶんちまでたどり着けないでしょ。部屋なんかい?
といって部屋まで送ってくれた
エレベーターのなかで気がついたのだが私は彼を知っていた
私はというかうちの高校の生徒なら多分みんな知っている
最近転校してきたひとつしたの学年で
イケメン転校生と評判だった
あまり噂に興味ない私が知っているのだから相当学校では有名なんだろう
友達につれていかれて見に行った時なんか人だかりができて凄かった
その時はチラッと見ただけだったが冷たい眼がとても印象的だった
でも今日は全然そんな感じがしない
それに間近で見るととても前回見たときとは比にならないくらい整って見える
「ねぇ聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。ごめんそうかも…」
送ってもらって玄関で帰すのも悪いのでとりあえず上がってもらった
熱中症ね…言われてみればそうかもしれない
部屋に帰って水分とってクーラーを少しつけたら段々楽になってきた
「謝んなくてもいいけどさ、寝不足だったりすると熱中症とかにすぐなるから気を付けなよ」
「言われてみれば最近寝不足がちだったかも」
だって時間がもうあんまりないから…
「ほらね、人間やっぱり寝なきゃなんだよ。鈴村先輩」
「え?何で名前」
「鈴村さくやでしょ?」
「そうだけど。何で知ってるの?」
「うちの学校で先輩知らない人なんていないでしょ。転校生の俺だって知ってるんだし」
そんなの知らなかった…
わりと地味に生活していたのに
「なんか悪い噂とかあるのかな…?」
「ないでしょ。普通に美人だからじゃない?有名なのは」
「そんなこと…坂下くんじゃあるまいし」
「でも先輩噂で聞くより全然普通だね。まあ噂なんて8割りはイメージだしね。真に受けてた訳じゃないけど」
「坂下くんだって噂で聞くより全然親切だね。今日はほんとに助かっちゃった」
私が初め彼に感じた冷たい目は私だけじゃなくみんなが感じてて
それでも彼はそんなとこもまたいいとさらに人気に拍車がかかった
「うわー俺どんだけ悪い噂たってんだよ」
そういいながらいじけたように髪をくしゃっとする姿は不覚ながらに少しドキッとした
「悪い噂とかって訳じゃなくてそういう冷たさがまた硬派で素敵って評判なんだよ」
「なんかそれもそれで…恥ずかしいから騒がれんのやなんだよ…てかもしかして先輩ここに一人ですんでんの?」
「うん?まあそうだよ」
「いいな。なんか秘密基地みたいで」
「秘密基地って…なんか発想が可愛い。まあでも最初は大変なことも多かったんだけどね」
「いつからここに住んでの?」
「高1の時から」
「へー何でまた一人?家が遠いとか?」
「そんなとこ。無理いって一人暮らしさせてもらってるから何となく友達よんだりとかもしたことないし、ここ知ってるのは坂下くんだけだな今んとこ」
「それじゃあ彼氏には悪いことしちゃったかな?」
「そんなのいないよ。出来ないし。それに恋愛しても仕方ないし」
どうせ二十歳になったらお見合いして結婚するんだ
それが家の方針だし
別にそれに反感があるわけでもない
だからわざわざ恋愛もしない
ただそれだけ
でもそれをわざわざせつめいするひつ用もない
「しても仕方ないって何で?」
「何となくだよ」
「ふうん。ま、人それぞれだしね」
坂下くんのこの返答には少し驚いた
だって何度かいろんな人に恋愛しないのはもったいないって言われたことがあったから
でも誰も坂下くんみたいなことはいってくれなかった
「うん」
「あーでもさ、独り暮らしの家に男簡単にあげちゃダメでしょ」
「うん…でもまあ坂下くんは信用できる気がするし、年下だしね」
「年下とかは全然関係ないから!一つしか変わんないし、信用してくれんのは嬉しいけど…でも大抵の場合は男のが強いんだし…」
「じゃあ坂下くん以外は入れない…でもお礼もしたいしまた来てよ」
坂下くんなら安全な気がするし、
何より残り少ない時間を少しでも他人と共有してみるのもいいかと思った
「それって…んーまあいいや、」
そういいながら髪をくしゃっとかいた彼はやっぱり可愛いと思った
そうして運命は交差する