坂下さんちの碧くんは、
そして歯車は回り出す
「でさー、要らないっていってんのに持ってくるから断れなくて」
「人気者で羨ましいかぎりじゃない、さすがは坂下くん」
坂下くんはよくうちに来るようになった
お礼としてふるまった料理をいたく気に入ったらしく
夕飯を食べに来るようになった
初夏に出会ってもう1ヶ月くらいたつ
週に3、4回は来ていた
私も一人分より二人文の方が張り合いがあるし
食べ終わったら片付けもしてくれる
一人でも別に平気だったが
坂下くんが来る日は何となく明るい気持ちになれた
「いや、だって5個もだぜ?そんなに食えねーよ。自分のだってあるし」
「人気の証拠じゃない、というか、自分でお弁当作ってるの?」
「いや母親が作ってくれるからさ」
以外かも…
高校生男子は母親の弁当とかいやがりそうなのに
「ふふっ…なんか坂下くん可愛い」
「ちょ…いや、可愛いって…」
「ん?」
「いや、いーや…もう」
こうして雑談してるときたまに見せる
はにかんだように下を向いて
髪をかきあげるのがとても可愛くて
学校にいるときの冷たい感じとは違って
ここでしか見られない素顔って感じで
この瞬間はとても幸福を感じていた
彼といるとやすらぎを感じられた
「坂下くん、学校でもそういう表情すればもっと人気出そうなのに」
「…別に人気になりたい訳じゃないし」
「まあ確かにね、今でも充分だよね」
そうちゃかすと
別にそう言う訳じゃ
とまた髪をかきあげた
「ところでさ名前呼んでよ?俺も名前で呼んでいい?」
そういわれて初めて気がついた
私名前知らない
それに誕生日も
最近よく一緒にいるのに…
もっとよく知りたい…かも
「いいよ、だけど…あの、坂下くんの名前知らなくて」
「碧」
そういって空に書いてみせた