もう一度抱いて
幸せな時間
ペンションでのアルバイトも、早いもので二週間が過ぎようとしていた。


私は午後の休憩時間を、ほぼ歌詞を書くことに充てていた。


そうして頑張った結果、1曲はすぐに仕上がったのだけれど、2曲目に差しかかった途端、すっかり煮詰まってしまっていた。


「里桜ちゃん、あんま無理せんほうがええで」


コテツの犬小屋の近くのベンチに座っている私に、相原君が心配そうに声をかけてくれる。


「大丈夫だよ。無理はしてない。
ちょっと煮詰まってるだけだから」


そう言って口角を上げて見せると、相原君は隣に腰掛け、眉間に皺を寄せた。


「それやったらなおさらや。
今日は何もせんと、ボーッとしとったらええ」


そんな。


いきなりボーッとしてろって言われても、どうしたらいいのか…。


どんどん曲が仕上がっているんだし、早く書いてみんなと合わせたいのに…。


そんなことを思っていたら。


「拓真の言う通りだ」


爽やかな風に乗って、キョウセイの声が私の耳に届いた。
< 112 / 479 >

この作品をシェア

pagetop