もう一度抱いて
ひとりになった私は、少し目を閉じてみた。


熱く湿った風が、私の髪や頬を何度も撫でていく。


鳥の鳴き声や、セミの鳴き声、さらには草が風で揺れる音まで。


いつもは意識しない音が、リアルに細部まで聴こえてくる。


私はふと思ったイメージや言葉を、ノートにメモした。


それは全く意味の繋がらない言葉だったり、子供の頃の記憶だったり。


曖昧なものだけれど、それでもとりあえず思いつくままに書いた。


そしてまた目を閉じる。


しばらくするとまたイメージが浮かんだので、それをメモする。


それを幾度となく繰り返した。


どれくらいそうしていたのか?


しばらく目を閉じていると、さっきまで鼻に感じていた匂いとは明らかに違う、急に湿った匂いに変化したのを感じた。


私に吹きつける風も、次第に強くなっていく。


そのうち、周りの草木がポタポタと水音を立て始めて。


こ、これって、もしかして…。


いや、もしかしなくても。


あ、雨じゃないかーーー!
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