もう一度抱いて
思いの行方
長いと思っていたペンションでのアルバイトも、気がつけば残すところあと一週間となっていた。


大学は9月20日までお休みだけど、ペンションのバイトは8月末までなのだ。


私はというと、あと1曲歌詞を書く為、午後から1時間ほどキョウセイと一緒に歌詞を作る日々が続いていた。


あれ以来、私達の間には特に変化はないのだけれど、相原君が『キョウセイは里桜ちゃんを好きかもしれん』と言ったので、それを妙に意識してしまっていた。


でも今思い返せば、思い当たるフシは沢山あった。


キョウセイの部屋で抱きしめられたことも、山での出来事も。


この間のキスだって…。


バンドのメンバーだからという理由だけでは済まされないことが、沢山あった。


「告白してみたら、ええんちゃう?」


また、この人は…。


そういうことを、さらっと言ってしまうんだ。


「あのね。わかってると思うけど、彼女がいるんだよ?
そんな人に告白してどうするの?」


言われたほうだって困るんだ。


断ることしか、選択肢がないんだから…。


「でも俺、ちょっと見てみたい気もすんねん。
里桜ちゃんの気持ちを知ったキョウセイの顔を」


それ、は…。


私も少し思っていたことだった。


キスをされたあの朝に。


もし瞼を上げていたら。


もし好きだと伝えていたら。


彼はどんな顔をしただろう、と。
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