もう一度抱いて
「おなか空いたし、注文しようか」


京香に言われて、私達は料理を注文することにした。


ハッキリ言って、食欲なんて一気に無くなっていた。


でも食べないわけにもいかなくて、仕方なくチキンのグリルとライスを頼んだ。


「里桜。彼とはね、つい最近付き合い始めたの」


最近?


そうなんだ…。


「どこで知り合ったの…?」


別に興味はないけれど、とりあえず聞いてみた。


「会社の先輩にね、ライブに行くのが大好きな男の人がいてね。
その人に誘われて、5月にアマチュアバンドのライブを見に行ったのよ。
その時に見たのが、彼のバンドだったの」


そう言ってニッコリ笑う京香。


「私ね、ライブなんて見たの生まれて初めてだったんだけど。
ギターを演奏するトモオ君に一目惚れしちゃって。
それを先輩に伝えたら、知り合いだから紹介してやるって言ってくれて。
そこからは猛アプローチ。
1ヶ月かけてやっと口説き落としたのよ」


「すごいね…」


思わず苦笑いした。


「初めて聞いた時驚いたんだけど、トモオ君って里桜と同じ大学なのよ。彼のこと見たことある?」


「え…?」


ビックリして彼の方を見ると、彼もパッと顔を上げた。


視線が絡み合い、少し頬に熱が帯びるのを感じた。


「し、知らないな…。
大きな大学だし、接点なければ会えないのよ」


「へぇ…。そういうものなんだねぇ」


知らないって言ったから、彼、安心しているかな?


大丈夫だよ。


あの日のことは、誰にも言ったりしないから…。

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