もう一度抱いて
永瀬と繋いだ手をそっと離した時、胸が張り裂けそうになった。


そうだ。


俺には彼女がいたんだって…。


おじさんが気を遣って、京香と過ごすよう言ったけど、俺はとんでもないことだと思った。


みんなが一生懸命バイトしているのに、俺だけ客なんてイヤだったし。


それに永瀬が京香に対して複雑な思いがあるのを俺はわかっていたから。


同じ屋根の下で過ごしていたら、元気を失くすんじゃないかって、そのことが心配だった。


一番イヤだったのは、京香の部屋の前で、永瀬とすれ違ってしまったことだ。


永瀬は俺の目を見てはくれなかった。


何か声をかけたかったけど、


どう声をかけていいかわからなかった…。

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