もう一度抱いて
別れない理由



キョウセイの言った言葉を、頭の中で繰り返す。


だけど、なんだかよくわからない。


「覚えて…る…?」


思わず首を傾げれば、キョウセイはゆっくり頷いた。


「うそ…。

あの時、キョウセイ覚えてないって…」


「それは、永瀬が忘れて欲しいって言ったから…。

だから俺も、覚えてないフリをした方がいいのかと思って…」


そ…んな。


てっきり私だけがあの日のことを覚えているんだと。


「俺だって、ずっと忘れられなかった…。

むしろ、忘れようとは思わなかった…」


まだ夏の名残りのある風が、キョウセイのサラサラな髪を揺らす。


その髪の隙間から見えるキョウセイの瞳は、いつになく真剣に私を真っ直ぐに捉えていた。


「俺には彼女がいる。それは事実だけど…」


キョウセイは私の腕を掴んでいた手を離すと、今度は私の手を取った。


「それでもあの時、キスしたいと思ったし、抱きたいと思った…」


静かに、だけど力を持って、キョウセイは言葉を紡いだ。


キュッと胸の奥が音を立てる。


繋いでいる左手が、微かに震えてしまう。


「好きって言ってくれて、嬉しかった。

恋人がいる俺を、好きって言ってくれて…」


キョウセイの声が少し震えている。


その目尻に、少し光るものがあることにも私は気づいていた。


「こんな俺だけど、ね」


「ん…?」


「伝えても…いいか…?」


キョウセイがあまりに苦しそうで、私の目にも涙が滲んでしまう。


コクリ頷いたら、


キョウセイはゆっくりと目を閉じた。
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