もう一度抱いて
俺と京香が初めて出会ったのは今年の5月。


場所は、この前永瀬も出演したあのライブハウスだった。


あの日も4バンドでライブがあって、俺らは最後の演奏だったんだ。


その日は特にお客さんが多くて、かなり盛り上がって大成功だった。


ライブも終わり、メンバーと控え室で片付けをしている時だった。


控え室に社会人と思われる男性と女性が現れたんだ。


男性はスーツを着ていて、女性もきちんとした身なりをしていた。


どうやらその男性は、小山の高校時代のラグビー部の先輩らしくて、小山はいつになく緊張した様子だった。


俺は体育会系じゃないからそういう上下関係には疎いけど、周りの友達に聞いたことはあった。


運動部の先輩後輩は厳しいって。




片付けも終わったし、ギターを背負って控え室を出ようとした時、小山に声をかけられた。


「な、なぁ。キョウセイ。

悪いんだけどさ、あの女の人がキョウセイの連絡先を知りたいって言ってるんだ。

連絡先交換してもらえないかな?」


突然そんなことを言われて、思わず目を見開いた。


「え、困るよ」


もともとそういうことが好きじゃない俺は、なんとか断れないかと言ったんだけど。


小山は必死に俺に頼んできた。


多分、先輩に頭が上がらないんだなと察した。


小山も充分ガッチリした男だけど、その先輩はさらに首の太い強そうな男だった。


逆らえない気持ちがわからなくもなくて…。


小山にはいつも世話になってるし、俺は仕方なくその女の人と連絡先を交換した。
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