もう一度抱いて
メールと電話はとどまることを知らず、正直イライラはピークに達していた。


小山のためと思って我慢して来たけど、もう限界だ。


今度こそハッキリしてやろうと思って、今日が最後だと前もって告げて、彼女と会うことにした。


彼女が最後に会う場所に指定したのは、コインバー。


カウンターでお酒を一杯注文して、空いている席に腰掛けた。


妙に椅子が高くて座りにくいな、なんて思いながら。


今日こそは決着をつけてやる。


俺は少し強気になっていた。


その時だった。


彼女がスッと左手で髪をかき上げたんだ。


その時に一瞬、左手首に何やら傷みたいなものが見えたんだ。


暗いし、見間違えたかと思ったんだけど。


グラスを持つ手や、ピアスを触る手を見ていたら、やっぱり手首に沢山の傷があるんだ。


それはどう見ても。


リストカットの傷跡だった。


前回会った時はそんな傷はなかったはずなのにどうして?と、ちょっと疑問になったんだ。


それで俺、聞いたんだ。


その傷、前もあったっけ?と。


そしたら彼女、苦笑いしながらこう言ったんだ。


「この前はファンデーションで隠してたの。
今日は暗い場所で飲むからいいかなって思って、そのままで来てしまったわ」って。


これだけ沢山の傷があるんだ。


何かあったのかなって、ちょっと気になって。


つい聞いてしまったんだ。


どうしてそんなことしたのかって。


そしたら彼女、少しずつその理由を話してくれて。


俺は、かなり衝撃を受けていた。
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