もう一度抱いて
「お疲れー」


重い扉が開き、誰かがスタジオ内へと入って来た。


「あれ?お客さんやん」


聞き慣れない言葉に、ドキッとして顔を上げた。


「おう、拓真(たくま)。お疲れ」


バスドラムを鳴らしながら、小山君が右手を上げる。


「相原(あいはら)君、合コンの時以来ねぇ」


にっこり笑う亜美。


「ほんまやな。どないしたん?見学ー?」


オレンジ色の柔らかそうな髪を揺らして、持っていた楽器のケースを床に下ろす彼。


「迷惑だった?」


亜美が心配そうに問いかける。


「いや、全然迷惑ちゃうで。
せやけど、小山。
今日、何の練習すんの?
ボーカル辞めてもうたのに」


「えぇっ?貴志君、バンド辞めたの?」


「せやねん。

あの合コン行って二人を仲直りさせたろ思うてたんやけど、キョウセイ話もせんと、ビールばっか飲みよったろ?

結局アカンかってん」


何の話をしているのだろう?


さっぱり話の中身が見えない。
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