もう一度抱いて
「ボーカルが辞めるの、これで三回目だもんな。

いい加減、誰かに落ち着いて欲しいもんだけど…」


そう言って小山君が膝に頬杖をついた。


「キョウセイと合うヤツなんか、そないおらへんて」


ベース担当の相原君も呆れ顔だ。


「ね、ねぇ。
さっきから言ってるキョウセイって誰のことなの?」


あまりに話が見えないので、思い切って聞いてみた。


「あぁ、磯村だよ。

アイツ、トモオっていう名前なんだ。

共に生きると書いて、共生(ともお)って読むんだ。

僕らは、キョウセイって呼んでる」


小山君に言われて、なるほどと頷いた。


磯村君の事だったんだね。


「里桜ちゃん合コンの時、磯村と仲良く飲んでたけど、アイツ、バンドのこと何か言ってなかった?」


「え…?」


バンドのこと…?


「ううん。特に何も聞いてないよ。

ただ、あんなにビール飲んでたのは、友達とケンカしてたからだって言ってた」


確か、そうだったよね?


「あぁ。その友達ってのが、辞めたボーカルの貴志のことなんだ。

二人が全然話し合わないから、無理矢理キョウセイを合コンに誘ったんだけど、結局ダメだったなー」


なるほどね。


京香という彼女がいるのに合コンに来たのは、そういう理由があったからなのね。


それならまぁ、しょうがないかな。

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