もう一度抱いて
『磯村君?』


低めの太い声が、俺の鼓膜を震わせる。


「はい…」


『すまないね。突然キミに電話なんかして』


あくまで低姿勢な清水さん。


いかにも社会人といった感じだ。


「あ、いえ…」


と、言ったものの。


あの5月のライブ以来、会う事もなかった人からの電話は、あまり歓迎出来るものではなかった。


『実は…朝田が昨日と今日、会社を無断欠勤しているんだ』


ドクッと。


心臓が張り裂けそうなくらい大きな音を立てる。


「無断…欠勤…?」


『携帯も全く通じないんだ。

キミは朝田と付き合っているだろう?

何か知らないかなと思って…』


思わずゴクンと息を飲む。


知ってるも何も…。


「あの…、俺と京香。一昨日別れたんです…」


『えぇっ?別れた?』


電話越しに声を張り上げる清水さん。


その声がやけに胸に突き刺さる。


『別れたのか…。

え…、ということは、もしかして…。

そのことがショックで体調でも崩してるのか?』
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