もう一度抱いて
「いや、あの…」


人前で歌ったことなんて、せいぜいカラオケくらいしか…。


それなのにこんなところで、しかも磯村君の前で歌うなんて。


無理無理。


絶対無理。


「なぁ…。頼むよ…」


うっ。


そ、そんな綺麗な顔で見つめられたら…。


お願いだから、そんな瞳で見ないでよーーー。


「里桜ー。歌ってあげてよー。
ほら、高校の時、私に歌ってくれた歌があるじゃん。あれでいいから」


え?


あれってバラードなんですけど。


「里桜ちゃん、お願いできる?」


小山君まで…。


ふぅとため息をついて、しぶしぶキーボードのある場所まで歩いた。


電源を入れると、丸椅子に腰掛けた。


「じゃあ、ちょっと古いけど。

あるアメリカの女性シンガーソングライターの1979年のナンバーを…」


私がそう言うと、みんなが急にシンと静まり返った。


ちょっと緊張したけれど、私は一度深呼吸をし、鍵盤に両手を置き、キーボードを弾き始めた。


そして、その英語のナンバーを歌った。
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