もう一度抱いて
「そうなんや…。

キョウセイに、そんなツライ過去があったやなんて、知らんかった…」


床に視線を落とし、呟くように言う拓真。


「せやけど…」


拓真は顔を起こし、俺を真っ直ぐ見つめてきた。


「俺はやっぱり、それは違うと思う。

どんなに怖くても、勇気出して突き放さなアカンと思う…」


突き放す…か…。


それが出来れば、もうとっくに…。


「お前がその恐怖を持ってる限り、里桜ちゃんが傷つくねん。

それやったらもういっそのこと、里桜ちゃんのこと、振ったってくれへん?」


「え…?」


永瀬を、振る…?


「お前は誰を一番大事にせなアカンか、全然見えてへんねん。

それがわからへんって言うなら…」


「言う…なら…?」


俺はゴクッと息を飲んだ。


「里桜ちゃんを…。





俺に譲ってくれへん?」


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