もう一度抱いて
真っ直ぐに届け
夕日を背にした巨大なビルの影が、辺りをすっぽり覆う夕方。


多分これって駐車禁止のために置かれてる石なんやろうけど、ちょうどいい高さやからそこに座ってみる。


ビル風がさっきから俺の体に吹き付けて、時々、足元に枯れ葉が飛んで来る。


11月のこの時間はすっかり寒くなってて、上着でも羽織らなやってられへん。


巨大なビルの1階の大きな自動ドアを眺めていたら、一際美人でスタイルの良い女性が、ハイヒールの靴音を鳴らしながら歩く姿が見えた。


その人は俺に気づくこともなく、俺の前を素通りして行く。


「おい」


少し低めの声で呼び止める。


すると、その人はビックリしたような顔をして。


「相原君…」


持っていたカバンをぐっと握り締めた。


「どうしたの?こんなところで」


訝しそうにその人は尋ねる。


「朝田さんに会いに来たんや」


「え…?」


「ちょっと話せへん?」


「で、でも…」


困った顔の朝田さん。


なんや俺を警戒しとるらしい。


多分あの夏に、牧場で色々けしかけたもんやから、あれで俺が怖くなったんかもしれへん。


「大丈夫や。ちょっとだけやし。
どっか入れるとこあらへんかな?」


「う…ん。ちょっと歩いた先に、カフェがあるけど…」


「ん。ほんなら、そこでええ。行こか」


彼女はしぶしぶやったけど、とりあえず一緒に歩いて来ていた。
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