もう一度抱いて
「誰でも良かった…?」


俺の問いに、京香はコクリ頷いた。


「俺じゃなくても、良かったってこと…?」


「そうよ…。

だから、もう気にせず行って」


そんなこと突然言われても、もう大丈夫だなんて、信じられるはずがない。


今でも鮮明に蘇るんだ。


コイツがバスルームで倒れていたあの日の光景が…。


「わざと…だったの」


「え…?」


「トモオ君と私が付き合うことが決まった日…」


「な…に?」


何が、わざとだった…?


「あの日ね…。

わざと手首の傷を見せたの…。

同情で、気を引きたくて…」


京香の言葉に、急に血の気が引いた気がした。


そんな…。


うそ…だろ?


「私の思惑通り、トモオ君はこの傷は何かって聞いてきたよね?

優しい人だってすぐにわかった。

私はね、トモオ君の優しさを利用してたんだよ…っ」


無意識に唇が震える。


わざと…だったなんて…。
< 427 / 479 >

この作品をシェア

pagetop