もう一度抱いて
しばらくバンドの演奏を聴いていると、小山君と相原君がステージに上がった。


「あ、いよいよだな」


小山君達が参加していたのは、一年のコピーバンドだった。


ギターの男の子は、まだ未熟さがある演奏だったけど、ドラムとベースのリズムがしっかりしているせいか、全体的に安定して聴こえた。


ボーカルは女の子で、私と同様、小柄な子だった。


小さい身体で一生懸命歌っている姿に、なんだか胸が打たれた。


「ねぇ、キョウセイ…」


「ん?」


「キョウセイは、もうバンドやらないの…?」


「え…?」


私の顔をじっと見つめるキョウセイ。


「キョウセイ、大学祭の2回目の練習に来なかったでしょう…?

あれ以来、2TRが集まることはなかったよね…」


私はあの日、キョウセイに会いたかった…。


すっかり落ち込んでいたけど、キョウセイの顔が見たかったし、キョウセイのギターが聴きたかった…。


それなのに…。


どうしてキョウセイは、あの日スタジオに現れなかったんだろうって。


私に会いたくなかったのかなって。


そう思ってつらかった…。
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