もう一度抱いて
「うん…」


キョウセイは目線をステージへと移した。


「あの日さ。

俺、スタジオの前まで行ったんだ…」


「え…?」


キョウセイ、あの日練習に来ていたの?


「じゃあ、どうして…?」


私がそう尋ねると、キョウセイはふぅとため息をついた。


「見たんだ…」


「見たって…、何を?」


「里桜が、拓真に抱きしめられてるとこ…」


「えぇっ?」


ドクンと心臓が跳ね上がる。


「キョウセイ、あれは…」


そんな…。


誤解なのに…。


「ん…。わかってる。

違うんだ…。

それがショックだったからじゃなくて…」


キョウセイが私に視線を戻す。


「里桜をあんな姿にした自分が許せなかったんだ…。

好きな子を抱きしめてやれない自分が…。

一体、何のための腕なんだろって思ったら。


もうギターなんて握る気になれなかった…」


「キョウセイ…」
< 446 / 479 >

この作品をシェア

pagetop