もう一度抱いて
それからの毎日、私と磯村君はお昼休みや空きコマを利用して、ひたすら歌詞を書いていった。


家に帰ってからも、歌詞を書いては磯村君に送信した。


恋愛の歌詞が書きやすいと言われて、私は過去の恋愛を思い出しながら、必死に歌詞にしていった。


不思議だったけれど、あまり自分と向き合わずに書いた歌詞は、必ずと言っていいほど磯村君に却下された。


逆に、昔の事をリアルに思い出して書いた歌詞は、大抵一発OKだった。


それを見抜いてしまう磯村君ってすごいなと、私はかなり感心していた。


そんなことが続いた金曜の夜。


いつものように磯村君とメールのやり取りをしていた時だった。


『アンタだんだんコツが掴めて来たみたいだし、明日で一気に仕上げよう。
明日、俺の部屋に来て』


突然来た内容にドクンと心臓が音を立てる。


へ、部屋って…。


磯村君って確か、一人暮らしだよね。


明日は土曜日だし、京香が来たりしないのかな…。


まずいよね?


彼女がいる人の部屋に女の私が行くなんて…。


あまりに色んな事を考え過ぎてしまって、なかなか返信出来ずにいたら、電話の着信音が鳴った。


げっ。磯村君じゃん。


痺れを切らしてかけて来たのかな?


「はい…」


恐る恐る電話に出ると…。


『明日、10時に来れる?』


開口一番、聞かれてしまった。


「え、でも。明日は土曜日でしょ?京香が来たら悪いし…」


鉢合わせなんかしたら大変だもの。


『余計な心配するな。大丈夫だ。アイツは俺の家知らないから』


う、うそ…。


京香、磯村君の家を知らないの?


付き合っているのに、ビックリだな…。

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