背中越しの春だった
3、ヒトメボレ
放課後、藤の周りには自然と人が集まってくる。


「藤、今日帰りどっか寄ってこうよ」

「カラオケ行こうぜ、カラオケ!」


友人に誘われて、藤はうーんと考える顔をしながらショルダーバックを抱えて、机の上にぺたんと座った。


「どうしよっかなぁ。一平が部活なかったら、一緒に帰るし」

「だったら山本も行けばいいじゃん」

「いや、カラオケだとあいつ来ないよ。一平ってあんな顔してオンチだからさ」


マジで、と笑いが起こる。

私も山本一平のわりと端正な顔を思い出して、思わず吹き出しそうになってしまった。


なんだか帰りがたくて、別に藤とカラオケに行くわけでもない私まで、

のろのろとその場に残っていた。
< 11 / 68 >

この作品をシェア

pagetop