背中越しの春だった
そのとき、タイミングよく教室のドアが開いて、山本一平が顔を出した。
藤の顔が、パッと明るくなる。
「おせーよ!」
「あー、悪い。部活、やっぱなかったわ」
藤のもとへ駆け寄る山本を、男子の一人がからかう。
「山本、おまえめっちゃオンチなんだって?」
いきなりオンチ呼ばわりされて、はぁ、なんだよそれ、と顔をしかめる山本。
「照れんな。藤から聞いたよ」
「あ、てめぇ、ハル!」
きゃはは、と楽しそうに藤が笑う。
そういえば、山本は藤のことを「ハル」って呼ぶんだなぁ、とぼんやり思った。
「俺のどこがオンチなんだよ! ミスチルばりだろっ」
「どこがだよ! 大きな古時計もまともに歌えないくせに」
「言ったな? よし、じゃあ次おまえとカラオケ行く時は延々歌ってやるよ、古時計」
しかも平井堅じゃない童謡バージョンでな、と山本が真顔で言う。
藤はますますおかしそうに笑いながら、ぴょん、と机から飛び降りた。
そしてあっさりと、友人たちに手を振る。
「じゃ、俺らは帰るから」
えー、藤、カラオケ行かないの?と女子が不満そうに言ったが、
藤はごめんね~と笑って、さっさと山本の背中を押した。
「それじゃ、お先」
「じゃあな。俺、オンチじゃないからな」
「しつけーよ」
ふざけあいながら、あっさり二人は帰ってしまった。
残された人たちは、一気にテンションが下がってしまったのがわかる。
中心核を失って、途方にくれているみたいに思えた。
私もカバンを持って、立ち上がる。
山本一平。
この後私は、この人とも深く関わることになる。
藤の顔が、パッと明るくなる。
「おせーよ!」
「あー、悪い。部活、やっぱなかったわ」
藤のもとへ駆け寄る山本を、男子の一人がからかう。
「山本、おまえめっちゃオンチなんだって?」
いきなりオンチ呼ばわりされて、はぁ、なんだよそれ、と顔をしかめる山本。
「照れんな。藤から聞いたよ」
「あ、てめぇ、ハル!」
きゃはは、と楽しそうに藤が笑う。
そういえば、山本は藤のことを「ハル」って呼ぶんだなぁ、とぼんやり思った。
「俺のどこがオンチなんだよ! ミスチルばりだろっ」
「どこがだよ! 大きな古時計もまともに歌えないくせに」
「言ったな? よし、じゃあ次おまえとカラオケ行く時は延々歌ってやるよ、古時計」
しかも平井堅じゃない童謡バージョンでな、と山本が真顔で言う。
藤はますますおかしそうに笑いながら、ぴょん、と机から飛び降りた。
そしてあっさりと、友人たちに手を振る。
「じゃ、俺らは帰るから」
えー、藤、カラオケ行かないの?と女子が不満そうに言ったが、
藤はごめんね~と笑って、さっさと山本の背中を押した。
「それじゃ、お先」
「じゃあな。俺、オンチじゃないからな」
「しつけーよ」
ふざけあいながら、あっさり二人は帰ってしまった。
残された人たちは、一気にテンションが下がってしまったのがわかる。
中心核を失って、途方にくれているみたいに思えた。
私もカバンを持って、立ち上がる。
山本一平。
この後私は、この人とも深く関わることになる。