背中越しの春だった
4、予兆
恋をすると、急に景色が鮮やかになる。


駅から高校へと向かういつもの道を、私はかなり浮かれて歩いていた。

昨日まで見過ごしていた何気ない横道とか、看板とかを見つけては、いちいちニヤニヤしてしまう。


……私って、案外単純なヤツなのかも。


足取り軽く歩いていたら、後ろからあのエンジン音が聞こえてきた。

あ、と思った瞬間山本と藤のスクーターが私を追い越して行き、

そして派手なブレーキ音を立てて急停止した。

何事かとびっくりしていると、藤が私を振り返って手を振った。


「マッキー!! 昨日、ありがとー!!」


通行人の視線が、一気に自分に集まるのがわかる。

カッと顔が熱くなった。


「ちょっと、びっくりするじゃん! 急停止はやめてよね!!」

「感謝の気持ちじゃーん」


ヘルメットをつけた藤が、ケラケラと無邪気に笑う。


「あーもういい、わかったから! 危ないから早く行け!!」

「じゃ、また教室でね~」


のんきに手を振って、藤を乗せたスクーターはそのまま走り去って行った。

ほんとにムチャな奴だ。

私は熱い頬を手のひらで冷まし、歩き出す。


まだ心臓がドキドキしている。

やばい。嬉しい。

油断すると、歩きながら自然と顔がにやけてしまいそうだ。


心から思う。

藤に、もっと近づきたい。もっと知りたい。
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