背中越しの春だった
1、自覚のない出会い
その年の春、高校二年生の春も、やっぱり藤の背中から始まったように思う。


始業式の日。

私はいつもどおり、高校へ向かう長い上り坂をのぼっていた。


春は始まったばかりなのに、おどろくほどアツイ。


甘ったるい春の風に焦げ茶色の髪を好きなようにもてあそばれ、

ほとんど葉桜に変わろうとしている桜並木をぼんやり見上げながら、

私はリズムを刻むように一歩一歩、長い坂を上っていった。


私の通う柿坂高校は、山の高台にあるため学校までの一本道は

通称「柿高坂」と呼ばれる長い上り坂が続くのだけど、

そのぶん晴れた日には教室の窓から光る海をのぞむことができる。


私はわりと、自分の高校を気に入っていた。


それに一応、体力には自信がある。


中学校のときはバスケットボール部で部長まで務めたけれど、

高校には不思議なことに女子バスケ部がなくて、仕方なくバドミントン部に入部した。


ところがそのバドミントン部はほとんど同好会のようなやる気のない、

友達同士でじゃれあうことを目的としてりるのんびりした部活で、

でもこれは柿坂高校の部活動ほぼすべてに共通することだったりする。


唯一まともなのが市内ではベスト四に数えられるサッカー部くらいで、

そのサッカー部でも毎日練習があるわけではない、という徹底ぶりだ。


教師たちとしては、「毎朝柿高坂を上っているのだから、

無理して部活動に力を入れるまでもなく、自然と体力がつくだろう」

という見解らしいのだけど、それにしてもいい加減すぎるよ。


もっとも、この高校で一年間を過ごした今では、

すっかりその校風に馴染んでしまったけれど。
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