背中越しの春だった
藤はくだらない遊びに命かけてる感じがして、そこもまた「ムジャキ」でいい、らしい。


黒板一杯を使って一生終わりそうにないマルバツゲームをやりながら、

ケラケラ笑っている藤を見つめて、私の隣で美雪が大きくため息をついた。


「美雪ちゃん……なやましげなため息だね」

「わかる? わかっちゃう?」


美雪の頬はほんのりピンク色で、メイクもいつもより気合が入っている気がする。


「あれでしょ? 日本で一番高い山の」

「字が違うヤツね」


フジだ、と顔を見合せて笑い、再び美雪は物憂げな表情になった。

もしかしたら、藤にあげたハンカチのことでも考えているのだろうか。

あの冷たい表情がよみがえって、慌てて私は首を振る。


「間近で見たらあれは落ちるよ」


ふと、美雪がつぶやく。


「マジになっちゃったよ」


切なくて、気持ちのこもったつぶやきだった。

美雪は本気なんだ。本気で、藤に恋してる。

チョークを持ってふざける藤を映す美雪の瞳は、切なげに揺れていた。


「藤っていつも笑ってて、いっつもかわされてる気がする。全然つかみ所がナイ」


どうしていいかわかんないよ、と美雪は苦しそうにうつむいた。


私はそんな美雪の隣に立って、何も言えなかった。

言わなければいけないはずなのに。



藤を好きになったらきっと……迷路にはまる。
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