背中越しの春だった
その表情に、私は何か引っかかるものを感じた。

なぜだか一瞬、彼がものすごくイタそうな顔をした気がしたのだ。


「藤。どこかケガしてるんじゃない?」


私の言葉に藤はきょとんとして、そしておかしそうに肩をゆすって笑った。


「マッキーどんだけ長女キャラなんだよー。ケガしてんの、自分じゃん」


そして藤はそっと私の足元にひざまずくようにして、私の膝に触れた。

そこには、自分でも気付かなかったくらい、ほんのちょびっとだけ、擦り剥いた傷があった。


「ケガさせてごめん。保健室、行ってね」


そう優しく言った藤の指先は、ひんやりと冷たく、丁寧に私の傷痕をなでた。


私は赤くなるのも忘れて、藤の後頭部をぼんやり見つめていた。

藤ってすごく……感覚が、繊細なんだ。

なんだかちょっと感動していた。


そんな私を尻目に藤はさっさと立ち上がり、また賑やかにイスをいじり始める。


「やっぱ廊下は危ないな」

「仕方ない、中庭行くか!」


はっと顔をあげると、藤は再びイスの上に乗っていて、

友人に後ろから猛スピードで押されながら、私を振り返って手を振っていた。


「マッキーのパンツ見ちゃったぁー。黒の総レースッ」

「いや、下短パンはいてるから! 見えるわけないからっ」


ケラケラ笑いながら去っていく背中を見つめ、私は小さくため息をつく。

感動したそばからこれかよ。


私は再び世界地図や資料を持って歩き出す。

それでも、膝にはやっぱりはっきりと、あの藤の優しい指先の感覚が残っていた。
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