背中越しの春だった
放課後。

誰もいない教室で一人、私はプリントのホチキス留めをしていた。


膨大なプリントを一人ぼっちでパチパチ、地味にホチキスで留めていると、

自分の運の悪さをあらためて呪いたくなる。

てゆーか、うちの高校の教師たちは、委員使いが荒すぎ!!

城田さんもおとなしそうな顔して、こんなに大量のプリントを押し付けてくれるんだから、ひどい。

そして何よりもムカつくのが、イライラしながらもキッチリ仕事をしてしまう、自分のクソ真面目さだ。

こんなときは適当にさぼっちゃえばいいのに、最後まできっちり作業しないと気が済まない。

損な性格だと思う。


無心になってホチキスを動かしていると、廊下から女子たちの話し声が聞こえてきた。

部活中の、たぶんテニス部の子たちだ。

聞くとはなしに聞いていたら、その声の中に「藤」という単語が混ざっているのに気付いて、私は思わず聞き耳をたてる。


「……てかほんとカワイイよねぇ!」

「ちょい小悪魔で。めっちゃ無邪気だよねー」


あの笑顔は反則でしょ、と女子たちは声を合わせて笑う。


「いつもニコニコしててさ。見てるだけで癒されるわ~」

「ひとなつっこいし、ペットみたいだよね」

「ほんとに彼女いないのかなー?」

「あー彼女と言えば、堺くんとC組の広田エリ、別れたらしいよ!」

「マジで!?」


だんだん声が遠ざかっていく。

私は小さくため息をついた。


――なんでみんな気付かないんだろう。

無邪気な笑顔と同じように、藤が暗く、冷たい影を持っていることに。
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