背中越しの春だった
ようやく長い坂を上り終えたとき、後方からマヌケなエンジン音が聞こえた。
だんだん近づいてくるな、と思った次の瞬間、私の横を一台のスクーターが通り過ぎて行く。
二人乗り用のビックスクーター。
柿坂高校の制服を着た男子生徒二人組みが乗っているのが、すぐに判別できるのろのろしたスピードだ。
それは見慣れた光景なので、生徒たちは特に気に留める様子もない。
私も桜を眺めるのと同じようにぼんやりと、走り去るスクーターの背中を見つめた。
私は彼らのことをちょっとだけ知っていた。
運転しているのは山本一平で、その後ろに乗っているのは藤春輝である。
同学年ではちょっと有名な二人組で、一応校則では二輪通学は禁止されているものの、
彼らは一年生の夏からずっとあのスタイルで悪びれるでもなく自慢するでもなく
淡々と登校し続けていた。
……と、私が知っているのはここまでで。
私自身はクラスも違ったし、特に二人と面識があるわけでもなく、
今日も何気なく通り過ぎて行ったその背中をぼけーっと見送っていた。
二つの背中が遠ざかり、小さくなっていく。
山本一平はすらっと背が高く、いかにもスポーツマン的なガッチリとしなやかな背中をしていたが、
その後ろの藤春輝の背中は、いつも小さく、いかにも頼りなく見えた。
ともかく、柿坂高校という学校は、何から何まで本当にユルい、
と道に残ったスクーターの煙の臭いを軽く手で払いながら私はしみじみ思う。
スクーターで二人乗り登校する生徒をあっけらかんと見逃してしまうのもそうだし、
一応基準服という形で制服を指定しながらも、男子はズボン、女子はスカートさえはいていれば
あとはジャージとかサンダル着用とか、かなり適当な格好でオッケーしてしまうのも、
何もかも「生徒の自主性に任せる」というよりは、「教師がラクしている」ようにしか見えない。
……そう言う自分も、規定のブレザーに袖を通したのは入学式とその後数週間くらいのもので、
始業式の今日も薄いピンクのシャツに白いカーディガンという思いきり自由な服をきてるんだけどね。
だんだん近づいてくるな、と思った次の瞬間、私の横を一台のスクーターが通り過ぎて行く。
二人乗り用のビックスクーター。
柿坂高校の制服を着た男子生徒二人組みが乗っているのが、すぐに判別できるのろのろしたスピードだ。
それは見慣れた光景なので、生徒たちは特に気に留める様子もない。
私も桜を眺めるのと同じようにぼんやりと、走り去るスクーターの背中を見つめた。
私は彼らのことをちょっとだけ知っていた。
運転しているのは山本一平で、その後ろに乗っているのは藤春輝である。
同学年ではちょっと有名な二人組で、一応校則では二輪通学は禁止されているものの、
彼らは一年生の夏からずっとあのスタイルで悪びれるでもなく自慢するでもなく
淡々と登校し続けていた。
……と、私が知っているのはここまでで。
私自身はクラスも違ったし、特に二人と面識があるわけでもなく、
今日も何気なく通り過ぎて行ったその背中をぼけーっと見送っていた。
二つの背中が遠ざかり、小さくなっていく。
山本一平はすらっと背が高く、いかにもスポーツマン的なガッチリとしなやかな背中をしていたが、
その後ろの藤春輝の背中は、いつも小さく、いかにも頼りなく見えた。
ともかく、柿坂高校という学校は、何から何まで本当にユルい、
と道に残ったスクーターの煙の臭いを軽く手で払いながら私はしみじみ思う。
スクーターで二人乗り登校する生徒をあっけらかんと見逃してしまうのもそうだし、
一応基準服という形で制服を指定しながらも、男子はズボン、女子はスカートさえはいていれば
あとはジャージとかサンダル着用とか、かなり適当な格好でオッケーしてしまうのも、
何もかも「生徒の自主性に任せる」というよりは、「教師がラクしている」ようにしか見えない。
……そう言う自分も、規定のブレザーに袖を通したのは入学式とその後数週間くらいのもので、
始業式の今日も薄いピンクのシャツに白いカーディガンという思いきり自由な服をきてるんだけどね。