背中越しの春だった
7、ケイタイ電話
初夏が訪れ、試験が終わった。

最後の教科が終了した瞬間に、一気に教室の空気が緩む。

このあたりのスイッチの切り替えにかけては、わが柿坂高校はかなりレベル高いんじゃないかと思う。

昨日までは「数学の範囲どこまでだっけ!?」という切羽詰った内容だった話題が、

すっかり「夏休みどこ行く?」と言ったくつろいだ話題に移っていて、

教室のざわめきは解放感に満ちている。


私自身、今すぐにでも海に行きたい気分。


窓の外に目をこらすと、遠くのほうにかすかに、キラキラ眩しい初夏の太陽を反射する白い海が見える。

前の席の藤の背中が、大きく伸びをした。



さっそくその周りに、友人たちが集まってくる。


「藤、試験どうだったー?」

「聞くな!」

「もういいじゃん、試験のことは忘れようよ」


とりあえず試験お疲れってことで遊ぼうよ、と女子の一人が提案する。


「ディズニーランドとか行きたいな」

「俺はイヤだ!!」

「あんたには聞いてないからっ。どう? 藤」


話を振られて、藤は少し考えてから、じゃあせっかくだしクラスの親睦会にしようよ、と提案した。


「というわけだから、マッキー。よろしく」

「はぁ!?」


突然藤がくるりと振り返って、当然という顔で笑い、私は驚いて声がひっくり返ってしまった。

聞き耳を立てていたのは認めるけど、まさかいきなり話をこっちに投げられるとは。


「なんで私!?」

「だってクラス委員じゃーん」


あんた城田さんよりタチ悪いよ、と心の中でこっそり呟く。
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