背中越しの春だった
「というわけで、クラスの親睦会をかね、試験お疲れ会をかね、

今週金曜日に飲み会を行おうと思うのですがっ」


その日のホームルーム後さっそく、気乗りしないながらも飲み会を提案した私に、

クラスの反応は冷淡だった。


「えー、それって強制参加じゃないよな?」

「めんどくせー」


試験疲れがそのままノリの悪さになって、尾を引いているようだ。

同時に、石本さんたちクラス全員で行くのはイヤだ派の女子たちが、

意図的に教室のムードを悪くしているようにも思える。


「えーと、とりあえず参加できる人だけでもいいんで……名簿回すから、

来れる人はマルつけて私のとこまで戻してください」


何はともあれ話をまとめようとすると、ふいに藤が細い手を挙げた。


「はーい。俺、一人三千円くらいで飲み放題、食べ放題の店知ってまーす」


その瞬間はっきりと、教室の空気が変わるのがわかった。


「マジで!?」

「やすくね!?」

「どんなコネだよ、藤!」


一気に盛り上がるクラスメイトたちに、藤は何でもない顔で無邪気に笑ってみせる。


「ビリヤードとかダーツもあるよ」

「へー」

「楽しそう!」

「藤も行くんなら、行こうかな」


さっきまでとは百八十度違う展開に呆気にとられていると、藤がにやっと笑いかけてきた。

そのいたずらっぽい瞳に、私は呆れながらも思わず笑い返してしまう。

やっぱり藤には、天性の人を動かすチカラがある。



まもなく私のもとに帰ってきた出欠名簿には、なんと全員の名前にマルがついていた。

全員来るんかい!と心の中で突っ込みつつ、自然と笑みが漏れた。


もしかしたら、いいクラスになるかもしれない。
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