背中越しの春だった
放課後、私は帰ろうとする藤を廊下で呼び止めた。
クラス全員が来ることになったことだし、早めに店を予約しなきゃと思ったのだ。
そう言うと藤は、俺が予約しとくよと楽しそうに笑った。
「三十人全員来るの? やった、また単価が下がった」
「単価単価って。どんだけケチなの」
思わず突っ込むと、ガクセイさんは金がない、だろー!とちょっと古いセリフで、藤は顔をしかめて見せる。
まぁ金がないのは私も一緒なので、それ以上反論するのはやめておいた。
「それじゃ、予約お願いしちゃっていいかな?」
「任せて。じゃ、予約できたら連絡するから」
ケイタイ教えて、と藤が携帯電話を取り出す。
正直言って、おおっ、これはラッキーかも、と思った。
藤が覗き込むように、私の前に携帯電話の画面を掲げてくる。
俺の携帯赤外線壊れてるんだよね、という声がすぐ額の上におりてきて、
思わず体がこわばってしまった。
手打ちで藤のアドレスを登録し終わったところで、
たぶんずっとタイミングをうかがっていたのだろう、
数人の女子が意を決したようにやってきた。
その中には、携帯を強く握りしめた美雪の姿もあった。
「藤、ついでだし、私たちにもケイタイ教えてよ」
ああいいよ、と藤はあっさりうなずいた。
美雪や女子たちの顔に、ホッとしたような幸せそうな笑みが広がる。
「じゃあ、私が藤のアドレス登録してメールするよ!」
「いや、俺が登録する! 俺がこのゴールド・フィンガーで!」
携帯貸して、と藤は順番に女子たちの携帯を借りると、慣れた手つきでアドレスを登録していった。
その指の動きは滑らかすぎるほどで、私は複雑な心境でそれを見守っていた。
きっと藤は、この子達に連絡しないだろうし……ヘタしたら、フリだけで登録もしていないかもしれない。
なんとなく、そうわかってしまった。
それでも嬉しそうに藤から返された自分の携帯を握りしめる美雪たちの顔を見ていると、
私は結局何も言えずに、藤は私たちにいつもどおりの笑顔で手を振って、帰って行った。
クラス全員が来ることになったことだし、早めに店を予約しなきゃと思ったのだ。
そう言うと藤は、俺が予約しとくよと楽しそうに笑った。
「三十人全員来るの? やった、また単価が下がった」
「単価単価って。どんだけケチなの」
思わず突っ込むと、ガクセイさんは金がない、だろー!とちょっと古いセリフで、藤は顔をしかめて見せる。
まぁ金がないのは私も一緒なので、それ以上反論するのはやめておいた。
「それじゃ、予約お願いしちゃっていいかな?」
「任せて。じゃ、予約できたら連絡するから」
ケイタイ教えて、と藤が携帯電話を取り出す。
正直言って、おおっ、これはラッキーかも、と思った。
藤が覗き込むように、私の前に携帯電話の画面を掲げてくる。
俺の携帯赤外線壊れてるんだよね、という声がすぐ額の上におりてきて、
思わず体がこわばってしまった。
手打ちで藤のアドレスを登録し終わったところで、
たぶんずっとタイミングをうかがっていたのだろう、
数人の女子が意を決したようにやってきた。
その中には、携帯を強く握りしめた美雪の姿もあった。
「藤、ついでだし、私たちにもケイタイ教えてよ」
ああいいよ、と藤はあっさりうなずいた。
美雪や女子たちの顔に、ホッとしたような幸せそうな笑みが広がる。
「じゃあ、私が藤のアドレス登録してメールするよ!」
「いや、俺が登録する! 俺がこのゴールド・フィンガーで!」
携帯貸して、と藤は順番に女子たちの携帯を借りると、慣れた手つきでアドレスを登録していった。
その指の動きは滑らかすぎるほどで、私は複雑な心境でそれを見守っていた。
きっと藤は、この子達に連絡しないだろうし……ヘタしたら、フリだけで登録もしていないかもしれない。
なんとなく、そうわかってしまった。
それでも嬉しそうに藤から返された自分の携帯を握りしめる美雪たちの顔を見ていると、
私は結局何も言えずに、藤は私たちにいつもどおりの笑顔で手を振って、帰って行った。