背中越しの春だった
8、ナイ
結局、藤から返信はなかった。


藤が予約してくれたのは、想像以上に大人っぽくて、お洒落なお店だった。

薄暗い照明はムードがあるんだけど、程よいボリュームの音楽や、

ナチュラルなイメージのインテリアが、高校生の私たちにも居心地よく感じられる、

ほんとに感じのいいお店。


店内の半分くらいのスペースを貸し切って、私たちはソファに座って乾杯した。


「それじゃ、二年B組に、かんぱーい!!」


ハイテンションで乾杯の音頭をとった藤は、

私のいるテーブルのちょうど後ろのソファに座って、

いつものようにたくさんの友人に囲まれている。

藤は慣れたお店だからなのか、とてもリラックスしていて、笑顔もくつろいでいる。


で、私はというと、猛烈に眠かった。

薄めに作ってもらったジュースのようなカクテルを飲んでいると、

それだけでうっかり眠ってしまいそうになる。


そんな私に気づいて、美雪が顔をのぞきこんできた。


「大丈夫? 依子ちゃん、眠そうだけど」

「あはは……」


私は適当に笑ってごまかす。

実は昨日、ベッドに入った後も藤の返信を待って眠れなくて、

結局一睡もできなかったのだった。


そんな寝不足の私をよそに、藤はダーツをしたり、

オニオンフラワーをジャンケンで負けた男子の口に詰め込んだりと、

無邪気に友人たちとふざけあっている。


なにはともあれ、藤が楽しそうでよかった。
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