背中越しの春だった
幸いにも、私はお酒には強いほうだ。


飲み始めて二時間もすると、酔い始める人が出てきた。

みんなお酒にそんなに慣れているわけではないし、

何より店の雰囲気に酔ってしまった部分もあったと思う。

私はこんなときまでクラス委員ということで、

おしぼりをもらったりお水を用意したり、酔った人たちの世話に追われることになった。


ほんとに、どこまでも損な性格だ。


お水のピッチャーを持ってみんなのグラスに注いでまわっていたら、

美雪に依子ちゃんが店員みたいだね、と言われてしまった。



カウンターに空のピッチャーを返して戻ってきたとき、

かなり酔った様子の石本さんが、藤に絡んでいるのが目に入った。

藤の隣にぴったり身を寄せて座る石本さんに、藤は特に迷惑そうな顔もせず、

適度に構ってやっている。

そんな落ち着いた態度が余計に気に食わないのか、

石本さんはますますヒートアップしていった。


「藤! あんたさぁ、ほんっとーに、カノジョいないの?」

「うん」


あっさりうなずく藤に、ウソだ!と石本さんが口をとがらせる。


「ほんとは、ほんとはいるんでしょ!?」

「いねーよ!」

「うっそだぁ~!」


信じようとしない石本さんに、藤は笑って答える。


「マジだって。中三からずーっといねぇし」

「てゆーか石本、酔いすぎだろ」


男子の一人が呆れて藤から石本さんを引きはがそうとするが、

石本さんはいっそう藤のほうへ身を乗り出した。


「じゃあさ、もし今誰かカワイイ子に告白されて、いいなと思ったら付き合う?」


その言葉に、周囲の女子が一斉に聞き耳を立てたのがわかって、思わず私は苦笑する。
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