背中越しの春だった
坂を上り終えると、校舎はもうすぐそこだ。


暖かい日差しを背中に受けながら桜の木が並ぶ校門につくと、

真新しい制服の新入生たちから好奇の視線を浴びまくりながら、

しかしまったくそれを意に介さずに立っている、先ほどの二人の背中とスクーターが見えた。


スクーターを降りた藤春輝はのんびりとヘルメットを外し、

後部座席の収納部分に慣れた手つきでそれをしまう。


山本一平はそれを見守って、父親のように微笑して彼の荷物を差し出した。


「俺のクラスも見といてよ」

「了解」

「今年こそ同じクラスだといいな」

「えぇ~、べつにぃ~」


ショルダーバックを受け取りがながら藤が憎まれ口をたたくと、山本は慣れた表情でさらりと受け流す。


「素直じゃないよな」

「うぜー!」


いかにも気心を知れあった、たわいもないじゃれ合いだった。


その光景は、この学校においては特に珍しくもないものとして認識されている。

あまり事情は知らないけど、二人は幼馴染らしい。


私もいつものように、相変わらず仲良いなあというごく普通の、

一般的柿坂高校生程度の感想しかもたず、その横を通り過ぎたのだった。



ふわふわと、やさしい風が舞っていた。
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