背中越しの春だった
十時過ぎには飲み会はお開きになり、私たちは帰り支度を始めた。

とりあえずかなり酔っ払っている子たちをトイレに連れて行ったり、

水を飲ませたりしていたら、藤が友人に囲まれているのがちらっと見えた。


「えーっ、藤、二次会行かないの!?」

「カラオケ行こうと思ったのに~」


不満げな友人たちに、藤はごめんごめんと笑う。


「一応俺の身内の店みたいなもんだからさ。残って片付け手伝うのが条件で、安くしてもらったんだ」

「そうなんだぁ……」

「藤が来なかったら、誰が『さくらんぼ』で『もーいっかい!』って言うんだよ!」

「なにそれ、なんかムカつく」


ケラケラ笑う藤から少し離れた場所で、石本さんは浮かない顔をしていた。

結局藤が来ないんじゃ……という感じで、二次会は中止になったみたいだった。



帰り際、店の前まで見送りに出た山本の隣に立って、藤は笑顔で私たちに手を振った。


「じゃ、また学校で!」

「ありがとうございました」


山本は店員らしく、軽く頭を下げる。


夜風が、気持よかった。

初夏とは言え、まだ夜はひんやりしている。

紺色の空には、白い月が光っていた。
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