背中越しの春だった
駅に向かって、少し酔った美雪と並んで歩いていると、思いがけず石本さんたちが近付いてきた。

まだ酔いが残っている様子の石本さんを筆頭に、クラスでもハデでかわいい女の子たちの集団に囲まれて、私は思わず身構える。


「槙野さん、小川さん。ちょっと聞きたいんだけど」

「……なに?」

「二人ともさぁ、もしかして、藤のこと好きなんじゃないの?」


突然の問いに、私は思わず吹き出しそうになってしまった。

石本さんたちの目は、真剣だ。

どう答えたものかと途方にくれていると、ふいに美雪が、勢いよく前に出た。


「はい! 好きです!」


呆気にとられる私。

美雪は頬を真赤にして、少し眼尻に涙をためて、はっきりと言った。


「同じクラスになって、すぐ好きになって……でもなにもできなくて。今でも見てるだけしかできないけど……好き」


石本さんが、無言で一歩前に出る。

そして、美雪の肩にポンと手を置いた。


「……同志だ!」


驚いたように美雪が顔をあげる。

私は、オロオロと成り行きを見守るしかなかった。

石本さんは照れ臭そうに笑ってみせる。


「私なんか、もう一年ちょっと片思いだよ」

「見てるだけってのもツライと思うけど、友達でいるのも結構しんどいんだからね」

「そうそう」


ほかの女子たちも一斉に賛同して、美雪を取り囲む。

まだ何が起こっているのかわからない様子の美雪は、何度かまばたきして、そしてちょっと微笑んだ。


「……同志、だ」


そうそう、同志だよ、と石本さんが強引に美雪の肩を抱き寄せる。


「今日もさぁ、聞いた? 聞いた? 告白されたら友達もムリ宣言」

「マジへこむわ! カノジョいないって安心してたけど、藤って好きな人とかいるのかなぁ」

「あれじゃとてもじゃないけど、こっちからは告れないよね。せつねぇー」

「もう同盟だよね! 藤片思い同盟っていうか」

「なぐさめあおうぜぇー」


私はちょっと拍子ぬけしながら、その光景を眺めていた。

……なんだ。
石本さんたちって、案外いい子たちなんだ。

美雪は嬉しそうに、同盟だぁと笑っている。
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