背中越しの春だった
9、夏
体育館は熱気に満ちている。

夏のむわっとする熱気。

バスケットボールを追いかける、男子たちの熱気。

そして、それに声援を送る、女子たちの熱気。


「藤ーッ!! がんばれぇ!!」

「B組ファイトー!!」

「藤くんカワイイ~っ」


女子たちの黄色い声援が飛ぶ。

それにこたえるかのように、ボールを受け取った藤はゴール下に切り込もうとして……相手チームのディフェンスに阻まれ、あっさり吹っ飛ばされた。

きゃーっと甲高い悲鳴があがる。

私はそっとため息をつく。


柿坂高校スポーツ大会最終日。

我が二年B組の男子バスケチームは、見事に大敗した。



試合後、私は藤を探して体育館裏へ向かい、水飲み場で一人水を飲んでいる藤を見つけた。

汗に濡れた前髪を額に張り付かせ、藤はごくごく喉を鳴らして水を飲んでいる。

水飲み場は木陰になっていて、涼しい風が吹いていた。

体育館の中から、歓声とボールの音が聞こえる。

藤は私に気づくと、水を止めて顔をあげ、ふっと笑った。

まだ頬が赤く上気していて、濡れた唇が艶めき、ドキッとする。
< 44 / 68 >

この作品をシェア

pagetop