背中越しの春だった
タオルで髪の毛と顔を乱暴に拭ってから、藤は能天気に笑った。


「はっはっは。うちのクラス、弱いねぇ」

「その代表格があんただから」


思わず突っ込むと、その通り!とますますのん気に笑っている。

その楽しそうな笑顔につられて、思わず笑い返してから、私は藤を探していた目的を思い出した。


「てか藤、あんたちゃんとゼッケン返却してよね、試合終わったら」

「あ」


忘れてた、と藤はTシャツの上から着たままのゼッケンを見下ろした。


「実行委員から回収して来いって言われたの。ほら、早く脱いで」

「また仕事押し付けられてる~」

「誰のせいだと思ってんのっ」


ケラケラ笑いながら藤はゼッケンを脱ぎ、私に差し出した。

走り回ったあとなのに、石鹸の匂いがふわっと香る。


「うちのクラスでいいとこいったのは、女子バスケだけかぁ。マッキー超うまかったよね」

「当たり前。私、元バスケ部だもん」

「うわー、超似合う! 顔がバスケっぽい!」

「それ褒めてんの?」


褒めてるに決まってるじゃん、といたずらっぽい目で私を見る藤は、

Tシャツ一枚のせいかいつもより頼りなげに見える。

どこからか、セミの声が聞こえた。

同時にそれに気付いて顔を見合わせ、藤は今年最初のセミだね、と笑った。

ふわりと風が吹き、濡れた藤の髪が揺れる。


藤はホント女の子みたいに華奢で、色も男子にしては白くて……

それなのに、なんでこんなに夏が似合うんだろう。


もうすぐ、夏休みだ。
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